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coffee cup 第85話

第83話
第84話




本当の私。
私のことをシックスはそう呼ぶ。
私は宙に浮き、カタチを失ったまま世界を見ている。
精神だけの状態でここにいる。
私はただ見守ることしかできない。
シックスとシックスを取り巻くすべてを。
私はただ眺めることしかできない。
広い世界と狭い世界の変化を。



sphere cafe。
その前に街灯がひとつ。
光が作り出した円は、水面に写し出された満月のように濡れた道の上に浮ぶ。
光の円と取り囲む闇の境界線は、ぼんやりとしている。
いつかは溶け合ってひとつになってしまうのではないかというほどに、ぼんやりと。
長髪の男の姿はない。
彼はどこに行ったのだろうか。
変わらず雨は降り続き、街灯と光が作り出す虫達だけが、暗闇の隙間に取り残されている。

カフェの真上。
そこから街を見下ろす。
街の中心とは違い、西側にはもうほとんど光は残っていない。
血管のような道と家々は暗闇に飲み込まれ、夜の一部として大地に存在する。
小さな光。
二つの並んだ小さな光が、血管を一定の速度で進む。
何度も曲がり、最短距離でカフェに近づく。
街灯の光に魅せられた虫のようにも見える。
不規則だが直線的な動きで虫は街灯に近づく。

sphere cafe。
その壁にもたれる二人の男。
小柄で目の大きな遠野は、黄色い腕時計をじっと見ている。
時間ではなく、数字が変わっていく様を遠野は見ている。
遠野の中でそれは映画のようなもの。
感動するような映画ではないにしろ、美しい景色と愛すべき哲学がそこにはある。
遠野はそれを見ている。
そこから4,5メートル離れたところに、同じような姿勢で小林が壁にもたれている。
濡れて吸えなくなった煙草を何度も指に馴染ませる。
小林は頭の中で、シックスに押し当てたスタンガンの感触を何度も確かめる。
そして、下に転がるシックスを見る。
快感とシックスを仕留めた事実が、小林を満たしていく。
あまりの幸福感に小林の体は小刻みに震えている。

二人の前に1台のワゴン車が停まる。
暗闇と雨と街灯が作り出した美しい景色を、二つのヘッドライトが踏みつける。
遠野と小林は何も言わず、機械のように動き、シックスを車に載せる。
扉の閉まる音が何よりも大きく響く。
何よりも。
車は静かに走り出し、闇の中へ消える。
遠野と小林は黙ったまま、お互い違う方向へと歩き出す。
任務は終わったのだ。
私の肉体はまた、あそこに運ばれる。
私はまた、暗いコーヒーの底に沈められるのだろうか。
考えても私にはどうする事も出来ない。
ただ、見守ることしかできない。










sphere cafe。
その前に街灯がひとつ。
変わらず虫が光を目指している。
その先には死しかないが、それでも彼らはそこへ向かう。
光の先に何があるというのだ。
どちらにしろ、私は見守ることしかできない。















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