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coffee cup 第82話

第80話
第81話



取り囲む闇が辿り着くことはない。
淡い光を纏った街が人々から夜を遠ざける。
善悪はない。
もしくはどちらも善悪を含んでいる。
確かめる術はない。
街があり、夜があり、雨が降る。
それだけが、確かなこと。




sphere cafe。
その前に街灯がひとつ。
光が作り出した円は、水面に写し出された月のように濡れた道の上に浮ぶ。
光の円と取り囲む闇の境界線は、ぼんやりとしている。
いつかは溶け合ってひとつになってしまうのではないかというほどに、ぼんやりと。
一人の男が街灯を見上げている。
そうかと思えば、道に描かれた光の円を見下ろす。
ゆっくりとそれらを繰り返す。
雨は確かに降っている。
その男にとって雨はたいして問題ではないのかもしれない。
街灯から伸びる光の筋が、雨を煌めかせる。
街灯に群がる虫のように。
男がそれを見ているかはわからない。
濡れた長い髪が、男の顔を隠している。




夜に浸かる山の中。
ポケットの携帯電話が光る。
雨音に掻き消され、音は聞こえない。
遠野は自分のポケットから発せられる光に気付き、電話を取り出す。
耳に当て、返事だけの会話をする。
ゆっくりと携帯電話を折りたたみ、ゆっくりとポケットにしまう。
辺りを見渡し、迷うことなく歩き始める。

闇が降り頻る山の中。
小林は下山している。
平坦な道を進むように歩いている。
何も見えない暗闇の中で、左手に握られた携帯電話が異様に輝く。
小林の歩く速度は遅い。
歩き方からは想像できないほど遅い。
雨の所為なのか、暗闇の所為なのかわからない。

遠野は木々の間を流れるように歩く。
『21:14』
遠野の黄色い腕時計が示す時刻。
遠野は光り輝く緑色のデジタルな数字を見る。
ただ見るだけで、気にする素振りはない。
腕を下ろし、暗闇のある一点を目指し歩いている。

小林は変わらずゆっくりと下山している。
携帯電話も変わらず左手に握られ、異様な光を発している。
時折、立ち止まり右下を見、何かを確認する。
小林の右腕には何かが握られている。
それを持ち直しているようだ。
小林は溜息をつく。
どういった種類のものかはわからない。

遠野がようやく目的地に辿り着く。
小林の目の前だ。
「それで奴はどこにいるんだ?」
と遠野。
「ここにある」
と小林。
小林は携帯電話で自身の右側を照らす。
シックス。
そこにはシックスがいる。
シャツの襟元を小林の右手が固く握っている。
気を失ったシックスは小林に引き摺られ、ここまで運ばれたのだ。
遠野は時計を見る。
『21:31』
そして計算する。
シックスを運び屋に引き渡す時刻を。
計算が終わると、電話を掛ける。
「22:00」
「sphere cafe」
時間と場所だけ告げ、電話を切る。
そして、彼らはその後に何も会話を交わさずシックスを運ぶ。






長髪の男がまだカフェの前にいる。
先ほどと違うところは街灯の下にいるということだけ。
光の円の中に男はいる。





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